ブックレビュー 芳賀ひらく – 江戸東京地形の謎、江戸の崖 東京の崖

公開日: : ブックレビュー

「ブラタモリ」の視聴率が良いようです。私のように20年以上タモリ倶楽部を見ている視聴者にとっては2度楽しめる番組なのですが、ここは上手い形で対極に持ってきたNHKの技あり。この番組、出演する大学の先生や学芸員、地元の研究者などの識者の方々がタモリさんの豊富な知識量に驚く場面が定番となっています。

タモリさんのように本来の仕事と関係の無い分野で優れた知識や特技を活かしている人が芸能界に非常に少ないのは、きっと放送局や視聴者がそのようなものを求めていない、ということもあるのでしょうが、世の中意外性とかセレンディピティといったものが新しい面白さ、価値、イノベーションを生み出す筈であって、昨今の国立大学文系廃止論に通ずるものがあり非常に残念です。テレビの中だけに限らず、教養とは縁の無いつまらない人間が今後増えていくのでしょうか。

話が逸れましたが、このブラタモリでよく出てくる言葉に「高低差マニア」という言葉があります。ここでいう高低差は山岳地形のような数百~数千メートルのスケールではなく、平地に現れる数十センチメートル~数メートルの非常に僅かな地形の変化を指しています。

登山を趣味とする人は多くいますが、注意しないと気が付かないこのような僅かな高低差に惹かれる人は少なく、それ故変わった趣味を持つ人という意味で「マニア」とされているのでしょうが、昨今では人命に関わる津波や土砂災害の被害が、そのような微細な地形の特徴に深く関係することが次第に認知され始めているように思います。

「江戸東京地形の謎」「江戸の崖 東京の崖」はタモリ倶楽部にも出演されたことのある地図研究家、芳賀ひらく氏による著。両著とも江戸時代から現代にかけてのカラーの地図がふんだんに掲載され、ざっと流し読みするだけでも楽しめます。

「江戸東京地形の謎」は22エリア、「江戸の崖 東京の崖」は10エリアについて、その土地の地質学的な形成、変遷、地名の由来、遺構など様々な情報が紹介されています。特に「江戸の崖 東京の崖」はカシミール3Dで航空写真を重ねて処理された立体地図が見ていて楽しい。標高の色分けではなく、現代の航空写真と重ねて強調処理しているところがポイント。日常の生活空間に潜む地形を上手くあぶり出すことで現実感が増しています。

京成電鉄からよく見える日暮里の崖は良く知っていましたが、「江戸の崖 東京の崖」では現在でも見られる類似の地形の例として千葉の屏風ヶ浦を紹介しています。本書の22~23ページの見開きに東側上空から見た現在の京浜東北線沿いの壮大な崖線の立体地図が掲載されているのですが、なるほど、と思います。

合併や宅地開発などにより、字や市町村単位で多くの地名が消えていきますが、これら地名に関しても深い洞察で解説されています。標高や地盤といった地質学的なデータと共に、これら古くからある地名も例えば土砂災害対策等に非常に有用な情報であることがわかります。なのに何の歴史も由来もない地名で置き換えてしまうことの浅はかさ。

両著とも渋谷や六本木、赤坂など、全国的によく知られている場所が紹介されているので、地図を見て訪れた時の記憶を辿りながら読むのも楽しく、多くの人に薦めたい本です。

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