ブックレビュー|宇宙が始まる前には何があったのか? – A UNIVERSE FROM NOTHING ローレンス・クラウス Lawrence M. Krauss

公開日: : ブックレビュー

現代物理学が辿り着いた、最新の宇宙像について解説した一般向け書籍の中では間違いなく最高の一冊。著者はアメリカの物理学者ローレンス・クラウス。昨年NHKで「宇宙白熱教室」という番組に登場し、今年も再放送されたので、ご存知の方もいると思います。

「宇宙白熱教室」ではユーモアを交えたわかりやすい講義に惹きつけられましたが、本書ではその講義に出てきた数式も一切登場せず、以下の様な事柄がより平易な言葉で語られます。

・銀河など遠方天体までの距離の測定方法
・そのような天体の移動速度の求め方
・宇宙がビッグバンで始まったとするいくつかの確かな根拠
・宇宙の形状(幾何学)の観測方法

ここまではちょっと宇宙に興味のある人ならよく知っている話かもしれませんが、ここ10~20年くらいの間の観測技術の向上と研究の成果がこの分野で驚くべき進歩をもたらしていることを知っている人は少ないかもしれません。おそらく今30歳台かそれ以上の人は宇宙の年齢は150億とか200億とか、かなり大まかな数字として学校で習った筈ですが、今は137億9千800万年±3700万年とか、有効桁数5桁の精度で求められているのです!どうしてそのような精度で求めることが出来るようになったのか、その経緯と根拠もしっかり解説されています。

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そしてここからが本題。上記の研究成果に基づいて明らかになってきた、今物理学の世界で大きな問題となっているダークマターやダークエネルギーの存在、そして宇宙の起源と未来というこれまで長い間人智を超えた領域として認識されていた壮大なテーマが、確かな「科学の言葉」で語られます。

ビッグバンで始まった宇宙の行き着く先は、、、2兆年後には天の川銀河以外の天体は観測不可能になり、、、さらにその先は(ここは白熱教室の内容ですが)空間が無限大に発散し、全ての物質が素粒子レベルまで分解されてしまうという、、、。

著者のローレンス・クラウスは自身のことを反神論者と表現し、本書の中でも宗教に関する記述が所々見受けられますが、私は子供の頃に読んだカール・セーガンやアーサー・C・クラークを連想しました。日本人は宗教に対しておおらかな国民なのでこのあたりのくだりは余計なものに感じられるかもしれませんが、欧米諸国では避けられないテーマなのでしょう。

本書では宇宙の起源の話のところでインフレーション理論が多く登場しますが、佐藤勝彦の名前が出てこないのは残念。学生時代に授業を受けたことがあるんだけどな~。一方でマルチバース(メガバース)を支持するもう一つの柱になるかもしれない超弦理論には懐疑的な立場をとっていて、ちょっとクセのある学者さんのようです。

先日東大宇宙線研究所の梶田隆章教授がニュートリノ振動の研究でノーベル物理学賞を受賞しましたが、ダークマターが発見されれば、これも間違いなくノーベル物理学賞に値するでしょう。というか賞一つでは足りないくらい?一方で最近は数学オリンピックで金メダルを取った高校生でも、頭の良い生徒はとりあえず東大の理三に行っとけ、みたいな、宇宙物理なんぞ志すと言ったら頭おかしくなったのかと思われるような国内の風潮の中で、何故かノーベル賞の話題は好意的にメディアで取り上げられる、、。

間違いなく今後日本人のノーベル物理学賞の受賞者は激減していくことでしょう。かつて日本人のお家芸であった筈の物理学。この分野でどこまで貢献できるのか、、、。そんなこともつい考えてしまう一冊でした。

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