ブックレビュー|Self-Reference ENGINE/円城 塔

公開日: : 最終更新日:2014/12/29 ブックレビュー

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)

Self-Reference ENGINE/円城 塔 – 2013年のフィリップ・K・ディック賞特別賞受賞作品です。日本人では二人目の受賞となります。

このSF文学賞、過去にルーディ・ラッカーやウィリアム・ギブスンも受賞しています。学生時代にこれら作家の作品に夢中になっていた頃、日本国内でのSF小説に対する理解度が如何に低いかとうことをいつも感じていましたが、時代は変わりました。

当時国内でSFといえば子供かオタクが読む漫画に近いものという認知度。同じ頃アメリカではニューヨークの銀行勤めのビジネスマンが通勤中に普通にウィリアム・ギブスンとか読んでるって聞いてましたから。

第二次ベビーブーム世代が働き盛りの年齢になっているのにも関わらず、日本企業、特にメーカーの勢いが近年ガタ落ちなのは、「夢は宇宙飛行士!、科学者!、エンジニア!」なんて堂々と言う子供が少なかった、そんな過去の背景もあったのではないでしょうか。

作品の内容ですが、

“イベント”もしくは時空崩壊と呼ばれる因果律と時空構造が破綻してしまったあとの宇宙が舞台。宇宙論や物理学に終焉をもたらし、同時に人間には原理的にそれらが理解不能であることまで証明してしまった複数のコンピューター”巨大知性体”が、時空構造を改変し、”イベント後”の破綻した宇宙を元の姿に戻すべく演算戦を繰り広げています。

、、、こんな風に書くとファンタジーっぽいですが、作者は物理学科出身で博士号の学位を持ち、研究者としての経歴もあるが故、文系作家にありがちな胡散臭さや素人っぽさは感じられません。一方で現役の科学者が書く、よくあるハードSFのようなくどさもありません。

「人工知能 対 人間」という構図は無く、人間が地面を這う蟻や池にいるミドリムシを絶滅させようとしないのと同様、それぞれが深く干渉すること無くそれぞれの目的を持って生きています。さらには物語に登場する”巨大知性体”は元は人間が作ったものですが、地球外生命の手による”超知性体”なるものも途中から登場します。

昔読んだアーサー.C.クラークの「楽園の泉」の中で文明のレベルみたいな話が出てきて、確か現在の人間は原子力・宇宙飛行を特徴とする第5番目の段階にいて、その一つ上の第6番目が”物質からエネルギーへの100%の転換”と、”全ての元素を工業的規模で変換する技術”でした。

本作品に出てくる異星人による超知性体はそのようなレベルを人間の手による巨大知性体からさらに30階梯程上ったところに位置しているそうで、、、。気が遠くなります。

しかもその超知性体は自分のことを”アルファ・ケンタウリ星人”と名乗ります。これ絶対ニューロマンサーでしょっ!

一つの物語が時系列に進んで行く話ではなく、疎結合した短編小説の集まりといった感じです。ただその一つ一つがとても面白く、久しぶりに一気読み&二回読みしてしまいました。宇宙や時空構造という壮大なスケールのアイデアに溢れていながら、エンターテイメント的な要素もあって、さらっと終わりまで読み進められます。

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